2014年3月28日金曜日

毎夜その家を通り過ぎた 02

There was no hope for him this time: it was the third stroke. Night after night I had passed the house (it was vacation time) and studied the lighted square of window:

( Joyce, "Dubliners" )


ジョイスの 『ダブリンの人々』 の冒頭の続きです。


前回は and の前までやりました。


    Night after night I had passed the house (it was vacation time) ...

    夜ごと、私はその家の前を通り過ぎた (私は休暇中だった) ...


この後に、

    and studied the lighted square of window: 

    アンド スタディード ザ ライティッド スクエア オヴ ザ ウインドウ

が続きます。


まず and ですが、and は基本的に何かと何かを並べます。 

並べられる何かと何かは (文法上・構文上) 対等な立場になります。


今の場合 and の後にある studied と同じ立場の語句が and の前(左)に在るはずです。

studied は動詞 study の過去形または過去分詞形なので、and の左に、動詞の過去形や過去分詞形がないか探します。

と、すぐに had passed が見つかります。

had は have の過去形、passed はここでは pass の過去分詞形でした。

( was もありますが、wasは括弧の中の文にあるので、とりあえず外して考えましょう。 )


で、studied は had (過去形) と並べられているのか、それとも passed (過去分詞形) と並べられているのか。


つまり、

    I had passed the house
        and    
    I studied the lighted square of window

なのか、それとも

    I had passed the house
      and    
    I had studied the lighted square of window

なのでしょうか。 (太字の赤字は追加した語句)


形としては、

    I had passed the house
      and    
    I had studied the lighted square of window

のほうが、両方とも

    主語 I + had + 動詞の過去分詞

という形になってすっきりします(形式的に整います)。


ですので、とりあえずこちらを採用して、続きを読んで不都合が生じたらまた考え直しましょう。


で、

    ( I had ) studied...

    私は勉強した...


「何を」 勉強したのか。

    ( I had ) studied the ...

the は定冠詞なので、theの次には必ず名詞が来ます。

その名詞を 「勉強した」 となるはずです。

    ( I had ) studied the lighted ...

ですが、lighted は名詞ではありません。

light は 「光」 「明かり」 という名詞ですが、ここでは -ed がついていることからも分かるように動詞です。

動詞の light は 「火をつける」 「照らす」 などの意味があります。

ここでは それが lighted と -ed がついているので、動詞 light の過去形または過去分詞形になります。


そのどっちなのか?

動詞の「過去形」 は文の述語として使われます。 なので必ずその動詞に対応する主語 (主語となる名詞) があります。

「過去分詞形」 は、受動態(受け身)で使われたり、現在完了形や過去完了形で使われたり、また、「~される」 「~された」 という意味をもった形容詞として名詞を修飾したりします。


今回の場合、the lighted ... となっているので、 lighted は文の述語としては使われてはいません。

さっきも言ったように、 the のあとには名詞が来るので、文の述語としての動詞がくることはないからです。


そうすると、今回の lighted は過去形ではなく、過去分詞形ということになります。

「火をつける」 「照らす」 の light の過去分詞なので 「火を点けられた、火の点いた」 「照らされた」 などの意になります。 

では、「火の点いた」のは、「照らされた」 のは何かというと、

    ( I had ) studied the lighted square ...

square は 「四角形」 です。

あるいは 「(四角い) 公園」 などです。

New York の有名な場所に Times Square (タイムズ・スクエア) というのがありますね。

あそこは公園ではないですが。


では、the lighted square は、

    火の点いた(照らされた)四角形

なのか、あるいは

    火の点いた(照らされた)公園
    
なのか、それとも別のものなのか。


続きを見てみましょう。

    ( I had ) studied the lighted square of window

of window 、つまり 「窓の」 なので、square は 窓の四角形の形(面)を言っているのでしょう。

それが、「照らされて」 いるのではないでしょうか。


だとすると

    ( I had ) studied the lighted square of window

は、

    私は、窓の照らされた四角形を勉強した

ですが、「勉強した」 じゃ変なので辞書を引くと、study には、

    詳しく調べる

    注意深く観察する

という意味も出ています。


なので、

    ( I had ) studied the lighted square of window

は、

    私は、窓の照らされた四角形をじっと観察した

とかです。


つなげると、

    Night after night I had passed the house (it was vacation time) and studied the lighted square of window:

    夜ごとに私はその家の前を通り過ぎ (休暇の時期だった)、照らされた窓の四角形をじっと観察した。

という感じです。


この小説の冒頭からつなげると、

    There was no hope for him this time: it was the third stroke. Night after night I had passed the house (it was vacation time) and studied the lighted square of window:

    今度ばかりは彼に望みはなかった。三度目の発作だったのだ。 毎晩ぼくはその家の前を通って (ぼくは休暇中だった)、四角い窓が照らし出されているのをじっと観察した。


こうして全体をつなげると二つのことがわかります。


1. ひとつは、the house の house に定冠詞の the がついているのは、その家がどの家でもいい任意の(=テキトーな)通りすがりの家ではなく、 「彼」 が発作を起こしている 「その家」 だということ。


2. もうひとつは、had passed が過去完了形なのは、「家の前を通りすぎてじっと観察した」 行動が、「彼」 が三度目の発作を起こしたとき (it was the third stroke の過去形) ”より以前” を表現しているということです。