( Joyce, "Dubliners" )
ジョイスの 『ダブリンの人々』 の冒頭の続きです。
前回は and の前までやりました。
Night after night I had passed the house (it was vacation time) ...
この後に、
and studied the lighted square of window:
アンド スタディード ザ ライティッド スクエア オヴ ザ ウインドウ
が続きます。
まず and ですが、and は基本的に何かと何かを並べます。
並べられる何かと何かは (文法上・構文上) 対等な立場になります。
今の場合 and の後にある studied と同じ立場の語句が and の前(左)に在るはずです。
studied は動詞 study の過去形または過去分詞形なので、and の左に、動詞の過去形や過去分詞形がないか探します。
と、すぐに had passed が見つかります。
had は have の過去形、passed はここでは pass の過去分詞形でした。
( was もありますが、wasは括弧の中の文にあるので、とりあえず外して考えましょう。 )
で、studied は had (過去形) と並べられているのか、それとも passed (過去分詞形) と並べられているのか。
つまり、
I had passed the house
and
I studied the lighted square of window
なのか、それとも
and
I had studied the lighted square of window
なのでしょうか。 (太字の赤字は追加した語句)
形としては、
and
I had studied the lighted square of window
のほうが、両方とも
主語 I + had + 動詞の過去分詞
という形になってすっきりします(形式的に整います)。
ですので、とりあえずこちらを採用して、続きを読んで不都合が生じたらまた考え直しましょう。
で、
( I had ) studied...
私は勉強した...
「何を」 勉強したのか。
the は定冠詞なので、theの次には必ず名詞が来ます。
その名詞を 「勉強した」 となるはずです。
ですが、lighted は名詞ではありません。
light は 「光」 「明かり」 という名詞ですが、ここでは -ed がついていることからも分かるように動詞です。
動詞の light は 「火をつける」 「照らす」 などの意味があります。
ここでは それが lighted と -ed がついているので、動詞 light の過去形または過去分詞形になります。
そのどっちなのか?
動詞の「過去形」 は文の述語として使われます。 なので必ずその動詞に対応する主語 (主語となる名詞) があります。
「過去分詞形」 は、受動態(受け身)で使われたり、現在完了形や過去完了形で使われたり、また、「~される」 「~された」 という意味をもった形容詞として名詞を修飾したりします。
今回の場合、the lighted ... となっているので、 lighted は文の述語としては使われてはいません。
さっきも言ったように、 the のあとには名詞が来るので、文の述語としての動詞がくることはないからです。
そうすると、今回の lighted は過去形ではなく、過去分詞形ということになります。
「火をつける」 「照らす」 の light の過去分詞なので 「火を点けられた、火の点いた」 「照らされた」 などの意になります。
では、「火の点いた」のは、「照らされた」 のは何かというと、
square は 「四角形」 です。
あるいは 「(四角い) 公園」 などです。
New York の有名な場所に Times Square (タイムズ・スクエア) というのがありますね。
あそこは公園ではないですが。
では、the lighted square は、
火の点いた(照らされた)四角形
なのか、あるいは
なのか、それとも別のものなのか。
続きを見てみましょう。
of window 、つまり 「窓の」 なので、square は 窓の四角形の形(面)を言っているのでしょう。
それが、「照らされて」 いるのではないでしょうか。
だとすると
は、
私は、窓の照らされた四角形を勉強した
ですが、「勉強した」 じゃ変なので辞書を引くと、study には、
詳しく調べる
注意深く観察する
という意味も出ています。
なので、
( I had ) studied the lighted square of window
は、
私は、窓の照らされた四角形をじっと観察した
とかです。
つなげると、
夜ごとに私はその家の前を通り過ぎ (休暇の時期だった)、照らされた窓の四角形をじっと観察した。
という感じです。
この小説の冒頭からつなげると、
There was no hope for him this time: it was the third stroke. Night after night I had passed the house (it was vacation time) and studied the lighted square of window:
今度ばかりは彼に望みはなかった。三度目の発作だったのだ。 毎晩ぼくはその家の前を通って (ぼくは休暇中だった)、四角い窓が照らし出されているのをじっと観察した。
こうして全体をつなげると二つのことがわかります。
1. ひとつは、the house の house に定冠詞の the がついているのは、その家がどの家でもいい任意の(=テキトーな)通りすがりの家ではなく、 「彼」 が発作を起こしている 「その家」 だということ。
2. もうひとつは、had passed が過去完了形なのは、「家の前を通りすぎてじっと観察した」 行動が、「彼」 が三度目の発作を起こしたとき (it was the third stroke の過去形) ”より以前” を表現しているということです。